焼き場に立つ少年

いつどこで見たのか全く思い出せないのですが、私の脳裏に焼き付いて離れない一枚の写真がありました。どこかの平和祈念展で見たのだと思うのですが、一人の少年が背中に弟か妹か分からないが幼子を背負って直立している映像です。その少年のキッとした眼差しに、思わず惹きつけられるものを感じたのです。それが忘れがたい映像だったのですが、つい最近ローマ法王のお声掛りでハガキ版に印刷され、大量に配布されているということです。私もその一枚を手に入れましたが、写真の裏面には「戦争がもたらすもの」と記載され、法王のサインが記されています。そしてこの少年が長崎原爆でなくなった弟を背負い、火葬の順番を待っている姿だと説明書きがありました。今この写真を全世界的に配布しようとした意図は、核軍縮が一向に進まないどころか、新たな脅威を引き起こしている現状に警鐘を発しているのかと思います。
法王フランシスコは、核戦争の脅威が「まさに瀬戸際にあると思う」と発言し、「ひとつ事故が起きただけで、事態が急展開するような状況だ」と一触即発の危機にあるとの認識を示しておられました。過去にも核兵器の危険性について頻繁に発言している法王は、米国が長崎に投下した原爆によって死亡した弟の遺体を背負う少年を写した1945年撮影の痛ましい写真を「これを印刷して配布したいと思った。このような写真は1000の言葉よりも人の心を動かし得る。皆さんと共有したいと思ったのもそのためだ」と語ったとのことです。この写真を撮影したアメリカ軍従軍カメラマンのオドネル氏は、自分のカメラで撮ったこれらの写真を50年間も人に見せることができなかったそうです。
しかしある日、ジョーは反核運動のシンボルを見ます。そしてその彫像に貼られた被爆写真を見て、彼の心は決意したとのことです。『1945年 あの原爆はやはり間違っていた。それは100年たっても間違いであり続ける。絶対に間違っている。』『真実を伝えなければならない』その決意から、ジョーは70歳を過ぎて、体験を語る活動をはじめましたが、周囲の反対は厳しく、大変つらい思いをされたようです。その父の遺志を継いで、息子のダイグが写真展を積極的に開催したり、写真集を出版したりしたようです。
彼らの強い決意と法王の危機感をどれだけ全世界で共有できているのかと考えると甚だ疑問であります。2017年国連で採択された「核禁止条約」には多くの国の賛同を得ているのですが、肝心の核保有国が殆んど参加していないだけでなく、世界で唯一の被爆国である我が国さえもアメリカの核の傘のもとにあるためか、この条約に賛同していないのです。あれから75年、戦争の脅威をほとんど知らない世代になってきました。しかし、忘れてはいけないことはしっかりと継承していきたいものだと思います。
<S・M>

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