狭い日本そんなに急いでどこへ行く

・先ごろリニア中央新幹線の建設工事が来年度から始まるというニュースが報道されました。当面、東京・名古屋間を時速500Kmを超える猛スピードでわずか40分で結ぶ、夢の超特急と言われるものです。世界の最先端を行く日本の科学技術の粋を集めた成果で、大きな夢と期待を集めています。素朴に素晴らしいなと感動する一方で、そんなスピードを出す必要があるのか疑問もわいてきます。

・半世紀前に流行った交通標語「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」が今更のように思い出されます。スピードと引き換えに何か大事なものを見失ってしまったのではないかと考えさせられてなりません。

・本川辰雄というユニークな生物学者が、その著「生物学的文明論」の中で、「文明の利器と言われるものは、便利なものであり、「便利」とは、速くできると言い換えられる。結局、エネルギーを使って、時間を速めるのが文明の利器だと言える」と述べています。そして、消費エネルギーで比較すると、現代人は縄文時代に比べて約40倍の速さの中で生きていることになるというのです。

・現代人は、莫大なエネルギーを使い、文明の利器を駆使して、時間を活用しようとあくせくしているようです。確かに、われわれにとって「時間」というものは極めて大切なものであることは論を待ちませんが、多額の金銭を払って得た時間は、果たしてどのように活用されているのでしょうか。

・私はここで、ミヒャエル・エンデが書いた「モモ」という本を思い出します。これは「児童文学」として書かれていますが、「時間」を主題にした極めて示唆に富むもので、むしろ成人たちが読むべき奥深い内容の本だと思います。

・街の古びた廃墟のような円形劇場に住み着いた、かわいい少女モモには人の話にじっと耳を傾けるだけで、人々に自信を取り戻させるような不思議な力がそなわっており、いつの間にか町中の人気者になりました。町の人々はモモを囲んで楽しく生きていましたが、ある日どこからともなく現れた灰色の男たちに「時間貯蓄銀行」に時間を貯蓄するように勧められ、時間の節約を強いられるようになり、いつの間にかゆとりを失い、余裕のない生活に追い込まれてしまうのです。モモはこれは時間泥棒だと思い、勇敢にも灰色の男たちに戦いを挑んでいくのです。

・人生の無駄遣いをしないために時間を貯蓄せよと説得された人々はゆとりある生活を失い、いつしか街は 灰色になり、人々はどんどん不機嫌に、怒りっぽくなってゆく、現代を暗示するこの物語は人生と時間の問題を考えさせる優れた文明批評であり、現代人への強い警告でもあると思います。

 一人一人に与えられた「時間」を、いかに有意義に生きるか、しっかりと自分の手に取り戻し、自分らしくいきることを考える契機にしたいものです。

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