福音のセールスマン
これはキリストが三つの背景をひとつのストーリーにまとめて語られたユニークなたとえである。
まず、最初はヘロデ大王(BC37~4)の死後、三人の息子たちが夫々、ヘロデの領土を分割して受け継いだ。すなわち、ヘロデ・アケラオはユダヤとサマリヤを、ヘロデ・アンテパス(バプテスマのヨハネを殺害した王)はガリラヤとペレアを、そしてヘロデ・ピリポはガリラヤ東部のデカポリスの地方を治めることになったことがひとつの背景となっている。このたとえに出てくる「身分の高い人」とはヘロデ・アケラオのことである。彼はローマ皇帝アウグストから王位を受けるために、遠い国(ローマ)に行く。しかし、国民は彼を憎んでいたので彼を王として迎えることを不服とし、後からローマに反アケラオ派による50人の使節団を送り「この人に王になってもらいたくありません」と言っている。
このたとえの二つ目の背景はご自身のことを語られている。「身分の高い人」とはいうまでもなく、キリストご自身のことである。彼は十字架に死んで、よみがえり、父のもとに行かれた。そして王位を受けて帰り、全世界を治める王として再び、地に来られるのである。 さらにこのたとえの三つ目の背景で、しかも、キリストがこのことを私たちに最も大切な真理として語ろうとしておられる。それはキリストが昇天されて、再び来られるまでの間、主が私たち、クリスチャン(教会)に託しておられる働きについて語られている。このたとえの中で身分の高い人は10人のしもべを呼んで10ミナ、すなわち、1ミナ(約100日分の賃金に相当する)ずつ、与えて「これで商売しなさい」と言っている。私たちの働きが商売と言われていることはたいへん、興味深い。私たちはセールスマンである。すなわち、福音の営業マンである。主人が帰って来る(キリストの再臨)と、しもべたちを呼んで精算される。最初のしもべは預けられた1ミナで10ミナをもうけ、次のしもべも1ミナで5ミナをもうけて、夫々が、報いを受けている。ここに求められていることは忠実さである。しかし、三番目のしもべは預けられた1ミナをふろしきに包んでしまっておき、そのまま主人に差し出した。そしてその1ミナは取り上げられて10ミナをもうけたしもべに与えられている。
商売に関して知っていなければならない知識について考えると、①人々のニーズについての認識、②商品に関する知識と自負、③人々の信用、④投資 などが挙げられるであろう。
主人(キリスト)はまもなく帰って来られようとしている。そのとき、私たちは預けられた働きについての評価を受けるのである。ひとり、ひとりがみな、タラントも能力も立場も違う。しかし、福音が預けられていることについては同じである。預けられたミナについては干渉も、監視もされないで私たちを信頼し、任せてくださったのである。儲けとは人々をキリストに導くことである。小事に忠実な者となろう。