『万軍の主に心注ぎ出す』
はじめに
今朝は、おそらく旧約聖書中で最も有名なエピソードの一つである「ハンナの祈り」を通して、主に心を注ぎ出す祈りと、その結果である祝福について見て参ります。
１．ハンナの苦しみ
ハンナの時代は「イスラエルには王がなく、めいめいが自分の目に正しいと見えることを行っていた」(士師21:25)、士師時代の最後に当たります。生ける神から離れて偶像礼拝に陥り、霊的に停滞していた時代にあって、ハンナの夫エルカナはまことの神を畏れ、毎年、当時の礼拝の中心地であるシロで家族と共に礼拝をささげることを常としていました。
しかしハンナは、解決されない悩みと苦しみを長年抱えて生きている女性でもありました。不妊の問題に端を発し、社会的・宗教的に恥辱のレッテルを周囲から貼られる事、家庭内での三角関係による耐え難いストレス、自分を最も愛してくれるはずの者(夫エルカナ)にさえ理解されないという孤独感に彼女は耐えなければなりませんでした。
ハンナには、主の御前に出る以外、もう道が残されていませんでした。そして、まさにそのことこそ、主が私たちにいつも願っておられることです。試練は、私たちが神の御前に心を注ぎ出す霊的状況を生み出します。人間のピンチは、神が働かれる最大のチャンスです。「苦しみに会ったことは、私にとってしあわせでした。私はそれであなたのおきてを学びました。」(詩篇119:71)
２．万軍の主に心を注ぎ出す
ハンナの祈りは、最初は個人的な願いの域を越えないものだったでしょう。しかし、彼女の心は、長い間の苦しみを通して、主に取り扱われるのにふさわしい状態へと砕かれていました。ハンナは主の前に出て、自分の心を洗いざらい注ぎ出しました。その結果、彼女は、これまで一度もささげたことのない、驚くべき大胆な信仰の祈りへと導かれます(Ⅰサムエル1:11)。ハンナの祈りは、自分の願いを越えた神の御心の核心に触れる祈り、働き人を生み出すとりなしの祈りでした。
祈り終えた後のハンナは「もはや以前のよう」(Ⅰサムエル1:18)ではありませんでした。祈りの中で主に心を取り扱われ、信仰を引き上げられ、万軍の主の勝利を先取りしたからです。時が満ちて、ハンナは、主によってサムエルを与えられました。主の御心は、最善の時に、最善の形で必ず成就します。
主は、私たちが自分の力では立ち行けなくなり、問題を神のもとに丸投げして降参するまで、しばしば待たれます。しかし、私たちがへりくだって主に近づき、主の前に心注ぎ出す時に、主は私たちに近づいて、主の深い愛と御心の高さにまで私たちの心と思いを引き上げて下さることを覚えましょう。「民よ。どんなときにも、神に信頼せよ。あなたがたの心を神の御前に注ぎ出せ。神は、われらの避け所である。」（詩篇62:8）
３．万軍の主の熱心により
ハンナの物語は、単なる個人の信仰物語ではなく、主のイスラエルに対する、ひいては私たちに対する救いのご計画の物語です。主に心注ぎ出す信仰の祈りの結果は、ハンナ個人の祝福にとどまらず、ハンナの属する共同体全体に及ぶものとなりました。
サムエルは、この後、霊的に停滞しきっていた全イスラエルに、神の言葉を忠実に取り次ぐ器へと成長します(Ⅰサムエル3:20、Ⅰサムエル7:13)。サムエルの働きによりダビデが王として油注がれ、このダビデの家系からやがて御子イエス・キリストが誕生します。ハンナは心注ぎ出して熱心に祈りましたが、「万軍の主の熱心」(イザヤ9:7)はハンナの熱心に勝っていました。
私たちは心注ぎ出して主に近づきますが、まず何よりも主が、御子イエス・キリストを通してご自身の心を私たちに注ぎ出してくださったことを覚えましょう。キリストの十字架の血潮により心に血の注ぎを受けてきよめられ(ヘブル10:22)、聖霊によって神の愛が心に注がれている(ローマ5:5)ことを、いつも感謝しましょう。主は御子をさえ惜しまずに私たちに与えて下さったのですから、いつも大胆に主の前に出て、聖霊によって心注ぎ出す祈りの器として用いられて参りましょう。
まとめ
ハンナは、偉大な主の救いのご計画の中で、祈りの器として用いられました。ハンナは、ただ、個人的な苦しみの問題を主の前に持ち出し、心注ぎ出して祈ったに過ぎません。しかし、主はそれをハンナの信仰と見て下さり、素晴らしいご自身の御業をあらわして下さいました。今日、私たちの心は主の前に注ぎ出されているでしょうか。「主はその御目をもって、あまねく全地を見渡し、その心がご自分と全く一つになっている人々に御力をあらわしてくださるのです。」(Ⅱ歴代誌16:9)
